DeepSeek:蒸留によるAI開発とは
●蒸留とは
●疑念(蒸留の利用)の理由
●蒸留は違法?
●DeepSeekに関する報道
●蒸留とは
AI開発において、蒸留(Distillation)とは、大規模で複雑なAIモデル(教師モデル)が学習した知識を、より小型で軽量なAIモデル(生徒モデル)に転移させる技術のことです。
●疑念(蒸留の利用)の理由
DeepSeekが蒸留を利用して開発されたのではないかと疑われている理由はいくつかあります。
1. モデルの性能とサイズの不一致
DeepSeekの言語モデル(特にDeepSeek LLM)は、比較的小さいモデルサイズのわりに高い性能を発揮していると報告されています。
通常、大規模なAIモデル(GPT-4やGeminiなど)は莫大な計算資源を使って学習されますが、DeepSeekのモデルはそれに匹敵する精度を持ちながら、学習コストが低いように見えるため、
• 大規模モデルをTeacherとして蒸留したのではないか?
と疑われています。特に、知識蒸留を使うと、小型モデルでも大規模モデルに近い性能を維持できるため、その可能性が指摘されています。
2. モデルの挙動が他の既存モデルと類似している
DeepSeekの出力や挙動が、既存の大規模モデル(GPT-4やLLaMA)と類似しているとの指摘があります。
• 例えば、DeepSeekの回答スタイルや文体、推論能力が、MetaのLLaMA 2やGPT-4の簡易版に似ているとされる。
• もし本当にゼロから学習されたモデルであれば、独自のバイアスやスタイルが反映されるはずだが、そうなっていない可能性がある。
このため、**DeepSeekが既存の大規模モデルの出力を蒸留して学習させたのではないか?**という疑念が生まれている。
3. 訓練データの不透明性
DeepSeekはどのデータを使って学習したかを明確に公開していない部分があります。
• LLaMAやGPTの出力を収集し、蒸留データとして学習させたのではないか?
• もしそうであれば、ライセンス違反や著作権問題に抵触する可能性がある。
特に、欧米の企業(OpenAIやMeta)はAIモデルの商用利用に関して厳格なルールを設けており、もしDeepSeekがそれらのモデルの出力を無許可で蒸留していた場合、法的な問題になる可能性がある。
4. 中国のAI業界での一般的な開発手法
中国では、大規模なAIモデルをゼロから開発することが難しいため、既存のオープンソースモデル(LLaMAやMistralなど)を利用し、それを蒸留して軽量化する手法が一般的に採用されているといわれています。
• DeepSeekもこの手法を採用したのではないか?という推測がある。
• 特に、中国政府は「自国産の大規模AI開発を推進」しているが、完全にゼロからの開発は困難なため、蒸留を利用している可能性がある。
5. 企業の透明性不足
DeepSeekの開発企業は、どのようなデータや手法でAIを訓練したのかを明確に説明していない部分があるため、
• 既存モデルを流用し、蒸留を通じて開発したのではないか?
と疑われている。
特に、西側のAI企業(OpenAIやGoogleなど)は、自社モデルの訓練方法やデータについて一定の情報を公開することが多いが、DeepSeekはそれと比較して透明性が低いため、疑念を持たれやすい。
結論
DeepSeekが蒸留を使って開発されたと疑われている理由は、
1. モデルのサイズと性能が不自然に優れている(蒸留による可能性)
2. 既存の大規模モデル(GPT-4やLLaMA)と挙動が似ている
3. 訓練データが不透明で、他のAIモデルの出力を使った可能性がある
4. 中国AI業界では蒸留が一般的な開発手法とされる
5. 企業の透明性不足(学習データや手法が明確でない)
これらの要因から、DeepSeekが蒸留を利用して開発されたのではないかと疑われています。もし事実であれば、ライセンスや知的財産の問題が生じる可能性があり、今後の調査や規制の対象になるかもしれません。
●蒸留は違法?
知識蒸留(Knowledge Distillation)を使ってAI製品を開発すること自体は違法ではありません。 しかし、蒸留に使う元のモデル(Teacherモデル)のライセンスやデータの取り扱い方によっては、法的な問題が発生する可能性があります。
1. 知識蒸留の基本的な合法性
知識蒸留は、**「あるモデルが学習したパターンを別のモデルに継承させる技術」**であり、これは一般的な機械学習手法の一つです。そのため、以下の条件を満たしていれば合法です。
• 独自に学習させたモデルを蒸留する(自社開発した大規模モデルを小型化する)
• ライセンス上問題のないモデルをTeacherに使う(オープンソースのAIを適切なライセンスで利用する)
• 学習データの著作権やプライバシーを侵害しない
例:合法なケース
• 自社開発の大規模言語モデル(LLM)を軽量化するために蒸留を使用
• MITライセンスのオープンソースAIを元に蒸留を行う
2. 違法またはグレーゾーンになるケース
(1) ライセンス違反の可能性
多くの大規模AIモデル(LLM)は、商用利用を制限するライセンスが適用されています。例えば:
• OpenAIのGPTシリーズ → 非商用利用が前提でAPI契約が必要
• MetaのLLaMA → 研究目的での使用は許可されているが、商用利用には制限あり
• GoogleのGemini → ライセンス次第では商用利用不可
もし、これらのモデルを無許可で蒸留し、独自のAI製品として販売すると、ライセンス違反になる可能性があります。
例:違法の可能性があるケース
• LLaMAのモデルを勝手に蒸留し、小型モデルを商用提供(ライセンス違反)
• GPT-4のAPIを使って出力データを蒸留し、それを別のAI製品として販売(契約違反)
(2) データの著作権・プライバシー侵害
蒸留に使う元のモデルが、著作権を侵害するデータや個人情報を含むデータを学習していた場合、それを蒸留したモデルも同じ問題を抱えることになります。
• 過去に、Stable DiffusionやGPTの学習データが著作権を侵害しているとして訴訟が起きたケースがある。
• もし、そのようなモデルを蒸留して新しいAIを開発した場合、そのモデルも同様の訴訟リスクを持つ。
例:違法またはリスクがあるケース
• Web上の無許可の書籍データを学習したモデルを蒸留し、商用AIを販売(著作権侵害)
• 個人情報を含むデータを学習したモデルを蒸留し、ユーザーのプライバシーを侵害する可能性があるAIを開発(プライバシー違反)
(3) 企業の契約・利用規約違反
一部のAIモデル(特にAPI提供されている商用モデル)では、「出力結果を使って新しいAIを作ること」を禁止している場合があります。
• 例えば、OpenAIのAPIを利用して出力を取得し、それを蒸留したモデルを開発すると、契約違反になる可能性がある。
例:契約違反の可能性があるケース
• OpenAIのGPT-4 APIを使って、AIの出力を蒸留し、別のLLMを開発・販売(API利用規約違反)
3. まとめ
ケース 合法 or 違法
・自社開発のAIを蒸留 合法
:オープンソース(MITライセンス)のAIを蒸留 合法
・LLaMA(Metaの研究目的限定ライセンス)のモデルを勝手に蒸留し商用利用 違法の可能性あり
:GPT-4のAPI出力を蒸留し、新しいAIを開発 契約違反の可能性あり
:著作権を侵害したデータを学習したモデルを蒸留し商用利用 違法の可能性あり
結論として、知識蒸留そのものは合法だが、使用する元のモデルやデータのライセンス・著作権を守ることが重要です。
●DeepSeekに関する報道
DeepSeekに関する問題を報じた主な記事は以下のとおりです。
1. 韓国国家情報院、DeepSeekの過剰な個人情報収集を指摘
韓国の国家情報院(NIS)は、中国のAIアプリ「DeepSeek」がユーザーの個人情報を過剰に収集し、入力データを学習に利用していると警告しました。 また、チャット記録の転送やキーボード入力パターンから個人を特定する能力についても懸念を示しています。 これらの問題から、韓国、オーストラリア、台湾ではアプリの使用が制限されています。
2. オーストラリアの企業、DeepSeekの使用を禁止
オーストラリアの主要企業、特に通信大手のTPGやOptus、そしてコモンウェルス銀行などが、政府の指示を受けてDeepSeekの使用を禁止しました。 これらの企業は、スパイ活動やサイバー攻撃のリスクを懸念しています。 同様の動きはイタリアでも見られ、データに関する懸念からDeepSeekの使用が制限されています。
3. 米国議会、政府デバイスでのDeepSeek使用禁止を推進
米国下院の超党派議員が、中国のAIアプリ「DeepSeek」を政府のデバイスで使用することを禁止する法案「No DeepSeek on Government Devices Act」を提出しました。 議員らは、アプリが中国共産党によって監視や情報操作に利用される可能性を指摘しています。
4. DeepSeek、OpenAIのデータを不正に入手か
DeepSeekがOpenAIのデータを不正に取得した可能性が報じられています。 この疑惑に対して、Microsoftが調査を進めているとのことです。
これらの記事は、DeepSeekに関するセキュリティやデータプライバシー、知的財産権の問題を詳しく報じています。
以上
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